移り変わる空と地上の話 星空
私たちはプラネタリウムにいた。プラネタリウムのある建物の、展示コーナーで銀河の解説が書かれたパネルを読んでいた。小さな子供を連れた家族や恋人たちに混ざって、私たち三人はその場の平均的な空気から、半歩ずれていたと思う。なんでもない休日だった。不思議とその記憶が鮮明なのは、白を基調とした近未来的な科学館の構造がそのほかの景色の中で異質だからだろうか。記憶のファイル一覧表があるとして、この記憶のサムネイルが目につくのかもしれない。
「いつか遠い未来、私たちは理想的な精神状態というのを、常に保つことができるようになっているかもしれないね」
唐突な発言も、既に軌道を外れてしまっている私たちには当然のことのように思われた。事実彼らは、目の前のパネルから目を離すことなく、ただ遥か古代からその先の未来を駆け抜け、人類の終焉までを早送りの教育ビデオで目にしたように、半ば眠ったような眼差しで頷いた。
「そうとも。愛は永遠に、友情は容易く、人は互いを尊重し、戦争など馬鹿げた破壊衝動は歴史でしか目にしないことになるだろう」
「計算が狂わない世界、曖昧な変数が科学の力で制御できるとしたら。あの電気羊の小説のように、ムードオルガンのようなものでね」
ああ、それはなんて素晴らしいことだろう! 私はうっとりとため息を吐いた。遠い遠い未来、私たちの生きる今は、なんて変わりやすく心許ない、一瞬の出来事なのだろう。取るにたらないもの、人類の進化からすれば個々の思い出などなんの意味もない。見つかりもしない。
「そんな世界、ぞっとするけれど僕らには無関係だ」
「今この瞬間、俺たちが関われるのはそれっきりなのだからね。未来は未来の価値観を備えた、俺たちとは全く別種の人間が決めるだろうよ」
だから、そんな未来を自分たちが怖がったところでナンセンスなのだ、と結んだ。別の感覚が、思想が未来の世界を形作ってゆくのだから。
「俺、今日誕生日なのだけれど」
私たちはプラネタリウムの放映時間を待っていた。パネルに視線を戻して、熱のない視線で文字を追っている。それでもそのパネルにしつこく視線を当てたまま、おめでとうと軽い調子で流す。もう一人は、微かに肩を揺らしてしのびやかに笑った。知らなかったな、おめでとう。誕生日の彼は情けなさそうに眉を下げた様子だ。お前には先週言っただろ、そうだった? 興味がないので忘れていたのだな。
取るに足らない記憶たち。意識の表層に浮かぶのは、そんな思い出ばかり。しかし取るに足る記憶の条件は、私にはちょっと導けそうにもない。